1. 食道内圧測定により診断されたDiffuse esophageal spasm(DES)の2例
愛知医科大学消化器内科
飯田 章人、早川 俊彦、小長谷 敏浩、笠原 明仁、舟木 康、今村 祐志、各務 伸一
愛知医科大学看護学部病態治療学
金子 宏
 症例1は76歳、男性。5年来、食事の際のつかえ感が持続。上部消化管内内視鏡検査では送気により食道に螺旋状の拡張が観察され、コルクスクリュー所見と考えられた。食道造影では嚥下したバリウムが食道内に停滞し、不規則な数珠状の蠕動が観察され、口側への逆流(エレベーター現象)も認めた。食道内圧測定では、静止下部食道括約筋(LES)圧は高値を示し、下部、中部食道では150mmHgを超える収縮波を認めた。嚥下時には300mmHgを超えるLESを含んだ同期性収縮を認め、LESの弛緩反応は認めなかった。以上よりDESと診断した。薬剤治療では改善を認めず、LES圧の低減のため同部のバルーン拡張術を施行した。術後、食道壁の不規則な拡張収縮運動は残ったが自覚症状は改善した。
 症例2は67歳、男性。スクリーニング上部消化管内視鏡検査において送気により食道内腔は螺旋状に拡張しコルクスクリュー所見を示した。嚥下障害等の自覚症状は全く認めないが、食道機能異常を疑い精査した。食道造影ではバリウムの通過に異状は認めず、異常な運動も確認できなかった。食道内圧測定を行ったところ、食道体部の同期性収縮、200mmHg以上の強収縮を認めた。水嚥下により蠕動波は観察されるが、収縮波高の増高、多峰性収縮や収縮時間の延長、自発的な同期性収縮波の出現が観察された。これらよりDESと診断した。
 症例1ではLESが嚥下時に弛緩せず、下部食道と同期性に収縮するため圧較差による食物の通過が困難となりつかえ感を呈し、症例2では下部食道内圧がLES圧を上回るため食物の通過に問題がなく自覚症状を呈さないことに関係していると考えられた。症例1のように病態が変化する可能性も考え経過観察中である。内視鏡検査時に食道のコルクスクリュー所見を認めた場合には潜在的に存在するDESを念頭に置き、積極的に内圧測定を行うことが重要と考えられた。
2. Nutcracker esophagusと考えられた2症例
広島大学大学院分子病態制御内科学
中尾 円、眞部 紀明、山口 敏紀、福本 晃、神野 大輔、北台 靖彦、茶山 一彰
広島大学光学医療診療部
田中 信治
川崎医科大学内科学食道・胃腸科
春間 賢
【はじめに】
食道運動機能障害は、胸痛(非心臓性)、胸部不快感、胸やけ、嚥下障害などさまざまな症状の原因となる。食道運動機能障害は、食道内圧検査所見により分類されており、Nutcracker esophagusは一次性食道運動障害のspastic disordersに分類される。今回われわれは、各種検査にてNutcracker esophagusと考えられた2症例を経験したので報告する。
【症例】
症例1は54歳、男性、原因不明の心窩部痛を主訴に当院紹介となった患者である。症例2は39歳、男性、食事の際に嚥下困難と心窩部痛を自覚するも放置していたが、健康診断の上部消化管造影検査にて食道運動機能障害が疑われ、当院紹介となった患者である。入院後、上部消化管造影検査、上部消化管内視鏡検査、超音波内視鏡検査、食道内圧検査などの検査を施行し、上記と診断した。
【結果】
上部消化管造影検査において、びまん性の異常収縮を認め、上部消化管内視鏡検査では、器質的疾患は認められなかったが、cork-screw状の食道内腔が観察された。また、超音波内視鏡検査では、食道筋層壁(主に内輪筋)が正常と比較し明らかに肥厚して観察された。これらの症例は、食道内圧検査において下部食道を中心とする蠕動波高の亢進(≧180mmHg)と蠕動波持続時間(振幅)の延長(≧6sec)が認められた。
【結語】
今回われわれは、Nutcracker esophagusと考えられた2症例を経験した。原因不明の胸痛や心窩部痛、嚥下困難を訴える患者の中には、本疾患も含まれている可能性があるため、食道運動機能異常をきたす疾患も疑い、適切な検査を進めていく事が重要である。
3. 家族内発生を認めた食道アカラシアとびまん性食道痙攣
北海道大学医学部消化器病態内科
中川 学、山本 純司、森 康明、小野 尚子、小平 純一、河原崎 暢、小松 嘉人、武田 宏司、杉山 敏郎、浅香 正博
北海道大学医学部附属病院光学医療療部
中川 宗一、清水 勇一、加藤 元嗣
中川胃腸科
中川 健一
 今回我々は、家族内発生を来した食道アカラシアとびまん性食道痙攣(diffuse esophagial spasm、以下DES)の症例を経験したので報告する。症例は46歳男性(息子)と84歳女性(母)。息子は1992年頃より食道の通過不良を自覚し食物と水分を同時に摂取していたが2002年2月頃より通過障害の増悪を認めたため前医受診。食道造影にて径約7cmに拡張した所見を認め、食道アカラシアの診断にて当科紹介となる。亜硝酸剤内服にて軽度の改善を認めるも通過障害が以前続くため、2003年1月14日、バルーン拡張目的にて当科入院となる。拡張後症状の改善を認め、以後外来経過観察となった。外来経過観察中に、母親も同じ症状を自覚していることが判明したため、当科受診。食道造影にてコルク栓抜き状所見を認めDESの診断となる。カルシウム拮抗剤の投与にて現在症状は改善しているため、現在外来にて経過観察中である。
 食道アカラシアとDESの家族内発生は世界でも5例ほどの報告があるのみであり、貴重な症例と考え今回報告した。
4. 成人良性食道疾患に対するMultiple Intraluminal Electrical Impedancometryの特性と小児食道疾患への応用の可能性
新潟大学大学院小児外科学分野
八木 実、窪田 正幸
Dept. of Gastroenterology, Royal Adelaide Hospital, Australia
八木 実、Holloway R H、Nguyen N Q、Tippett M、Dent J
【目的】
Multiple Intraluminal Electrical Impedance 測定(MII)は1990年代末に欧米で臨床応用に至った消化管内容のクリアランス状態を消化管腔内のインピーダンス値の変化で把握可能な新しい消化管運動機能測定法である。今回、成人食道でのMII測定解析の経験から、その特性と小児への応用の可能性を検討した。
【対象及び方法】
健常成人10例、成人良性食道疾患15例(gastroesophageal reflux:GER 3例、esophageal achalasia:ACH 4例、diffuse esophageal spasm:DES 4例、non-specific esophageal dysmotility:NSED 4例)に対し、極間距離2cmのペアリング電極を5cm間隔で4組配列した4チャンネル食道インピーダンス測定カテーテルを使用した。空腹時に測定チューブを経鼻的に食道内に挿入し、ペアリング電極の最下端を下部食道に留置し測定した。各々、水を10mlずつ10回嚥下させ各チャンネルでの内容物の通過時間Bolus Present time(BPT)、チャンネル1から4までの全通過時間Total Bolus Transit Time(TBTT)、10回の嚥下のうちチャンネル4までクリアランスされた率Transit Effect Rate(TER)を算出し、クリアランスのパターンも検討した。
【結果】
測定時間は30分程度でチューブ留置後は特に苦痛は伴わなかった。BPTで上部食道においてDES群とACH群で対照群に比し有意に遅延していた(p<0.05)。TERは各食道疾患群で対照群に比し有意に低下していた(p<0.05)。パターン面では嚥下内容のクリアランスのみならず逆流の有無や程度が把握可能であった。更に、インピーダンス値から食道内停滞内容(液体、ガス)の把握も可能であった。
【結語】
MIIはパターン認識も可能な侵襲の少ない検査法であり、小児にも十分応用可能であると考えられた。
5. クローン病の胃運動機能:胃電図法を用いた検討
高知赤十字病院消化器科
河野 奈緒、岡本 博司、内田 訓久、岩村 伸一
徳島大学医学部 臓器病態治療医学
野村 昌弘、伊東 進
【目的】
クローン病は各種の消化器症状が認められるが、胃運動に関する検討はあまりなされていない。今回、胃電図を用いて、クローン病における胃運動について検討した。
【方法】
健常例およびクローン病(大腸型)症例について、食事前後の胃電図(ニプロ)を記録した。記録データは2.1〜6.0cpmの周波数フィルターを用いて、高速フーリエ変換を行い、dominant frequencyとpeak power値を求めた。
【結果】
胃電図の周波数解析において、健常例では3cpmの周波数のpeak power値は摂食により有意に増加したが、クローン病例では、摂食による増加反応は認められなかった。また摂食前後のpeak frequencyは健常例ではともに3cpmで変化を認めなかったが、クローン病例では、摂食前にpeak frequencyが3.2cpmであったのが、摂食後にはpeak frequencyの分裂を示した症例がみられた。
【結語】
クローン病における消化管運動についてはこれまで報告は少なく、manometryやcinematographyにより消化管運動機能の検討がなされ、クローン病では消化管運動機能が障害されると報告されている。また胃電図にて検討した報告はこれまで殆どなく、8例のクローン病患者で胃電図にて胃運動を検討し、健常例と比較して食後の有意な3cpm波の増加やdominant frequencyのピークの増加も見られない報告されているのみであり、詳細な検討はされていない。今回の検討では、クローン病では摂食に伴い胃電図波形の3cpm波が分裂をきたし、大腸のみならず上部消化管にも機能異常が認められると考えられた。
6. H.pylori感染が食後期および空腹期胃運動・pHにおよぼす影響
群馬大学大学院医学系研究科 病態制御内科学消化器内科
小泉 幸彦、草野 元康、森 昌朋
【目的】
H.pylori(Hp)感染の胃十二指腸運動および胃内pHへ与える影響を検討する目的で、今回検討した陽性健常者と以前報告したHp陰性健常者の胃運動・pHを比較検討した。
【方法】
血清Hp IgG抗体陽性健常被検者8人(男性4人,女性4人,平均年齢24.4歳)において、5cm間隔の3ch strain gauge transducerで胃内圧測走、また2chアンチモンpHセンサーで食道下部括約部上5cmの食道と下10cmの胃のpHを測定した。センサーはX線透視下で挿入し、就寝の確認は体位センサーを用いた。携帯型記録装置μDIGITRAPPER(Synectics Medical社、スウェーデン製)で記録し、夕方17:00から翌朝8:30まで同一標準食摂取下に次の4条件で計測を行った:未投薬、PPI単独(rabeprazole 20mg 2T 2×朝夕食前)、PPI + H2A(ranitidine 150mg就寝前)、PPI+選択的5HT4 作動薬(5HT4)(mosapride 15mg 3T×毎食前)。各薬剤は1週間投与し最終日に計測を行い、各薬剤投与は1週間以上の緩衝期間を設けた。Nocturnal acid breakthrough(NAB)の有無、夕食後最初のInterdigestive migrating complex(IMC)出現までの時間とその前後での胃内pH、IMCの回数などを検討項目とした。
【結果】
Hp感染者ではHp非感染者(n=10)より有意にNABが少なく、食後期時間は長く、IMCも少なかった。また、Hp非感染者に認めないIMC後の胃内pHの上昇を認めた。Mosaprideは食後期時間を短縮した。
【結語】
IMC後Hp非感染者では胃内pHは上昇しないがHp感染者では上昇していた。Hp感染者では食後期、空腹期の胃運動は減弱していると考えられた。
7. 超音波法による液体食投与後の胃十二指腸運動の観察
川崎医科大学内科学食道・胃腸科
楠 裕明、春間 賢、畠 二郎、田中 俊昭、村中 亜紀、佐藤 元紀、垂水 研一、鎌田 智有、古賀 秀樹、武田 昌治、本多 啓介、藤村 宣憲
広島大学大学院・分子病態制御内科
眞部 紀明、田中 信治
【背景】
第44回平滑筋学会ワークショップ標準案としてCacetateと液体試験食(ラコール)を用いた胃排出能検査法が発表されている。また、われわれは以前より体外式超音波(以下US)を用いて胃十二指腸運動を評価してきたが、ラコールを試験食とした検討は実施していない。
【目的】
今回我々はラコールを試験食として用い、投与後の試験食の移動および胃十二指腸運動をUS法で詳細に観察した。
【対象】
健常人女性4名、男性1名(平均年齢32歳)
【方法】
早朝空腹期にラコール200ml(200kcal)を経口投与し、投与直後および投与後20分までを5分間隔、20〜60分を10分間隔、60分〜完全排出までを15分間隔で観察し、前庭部横断面積と前庭部運動、試験食の動きを評価した。前庭部横断面積はUS法で大動脈と上腸間膜動脈が同時に観察できる断面を描出し、US装置内臓のキャリパーを用いて測定し、排出曲線を算出した。
【結果】
投与直後に試験食が十二指腸に流入するのが確認され、投与5分後は直後より前庭部横断面積は減少した。しかし、投与10分後には再び前庭部横断面積は増加し、その後はほぼ一定の割合で減少した。前庭部運動は投与数分後に極めて微弱となりほぼ停止状態となったが、投与15〜20分前後から弱い収縮が認められ、徐々にはっきりした収縮となった。試験食の完全排出時間は120分が2例、135分、150分、165分がそれぞれ1例であった。
【結語】
試験食投与後の前庭部運動の停止は、試験食が十二指腸に流入した後に認められ、いわゆる十二指腸ブレーキがかかった状態であると思われた。液体食の排出は一定であると思われてきたが、ある程度のカロリーを含む試験食では様々な排出動態を示すことが考えられた。US法で投与直後から詳細に胃十二指腸運動および試験食の移動を観察することは、より詳細な胃排出メカニズムの解明につながると考えられた。
8. 糖尿病患者におけるCー酢酸呼気試験を用いた胃排出能の検討
日本医科大学付属多摩永山病院消化器科
松久 威史、江上 格
【目的】
Helicobacter pylori感染、除菌診断にC-尿素呼気試験が用いられるようになり、種々の呼気試験が生体機能検査として応用されている。C-酢酸呼気試験とアセトアミノフェン(APAP)法を同時に行い、糖尿病患者の胃排出能成績について観察した。
【対象と方法】
Cー酢酸呼気試験、アセトアミノフェン(APAP)法を同時に行った糖尿病患者11症例(透析症例3例を含む)を対象とした。その際、2002年の日本平滑筋学会総会において検討された「Cー呼気試験の標準化案」を参考に胃排出能検査を行った。胃排出能の測定には液常試験食OKUNOSーA 200ml(200kcal)にCー酢酸(100mg)、APAP(20mg/kg)を混和したものを使用した。呼気の採取は試験食摂取前、摂取15、30、45、60、75、90、105、120、135、150、165、180分後に行い、Tmax(呼気中CO存在率曲線上のピーク値をとるまでの実測時間)、TmaxーCalc(計算上のTmax)、T1/2(呼気中にCOとして排泄されるCー酢酸の総排泄量の1/2が排泄されるまでの時間)を胃排出能の評価指標とした。CO濃度(‰)は質量分析法により測定した。APAP法による胃排出能は試験食摂取45分後の血中APAP濃度(HPLC法)で判定した。
【結果】
2型糖尿病患者(N=8)のTmax,Tmax-Calc,T1/2,APAP値は延長,低下傾向にあった(それぞれ90分,74.4分,133.8分,7.9μg/ml)。慢性腎不全のため血液透析を行っている糖尿病患者(N=3)のそれらはさらに遅延していた。
【結語】
C-酢酸呼気試験は糖尿病患者の胃排出能検査として有用であった。
9. 連続的な呼気採取によるC胃排出能測定は食後期消化管運動の変化を反映する
群馬大学医学部病態制御内科学・光学医療診療部
財 裕明、下山 康之、栗林 志行、草野 元康、森 昌朋
【目的】
C呼気試験において、連続的な呼気採取により得られた胃排出パターンと呼気バック法により得られた胃排出パターンを比較するとともに、胃内圧の同時測定を行い、その差異を検討する。
【方法】
7名のH. Pylori陰性の健常人が対象。計4時間、連続的な呼気採取により胃排出測定を可能にするBreath ID Systemと、呼気バックを用いた間欠的な(0〜100分:10分毎、100〜240分:20分毎。計17ポイント)呼気採取(UBiTIR300で呼気中COを測定)による胃排出測定を同時に行った。また、胃内圧測定をsolid state manometerで同時に行った。試験食は400Kcal/400mlの液状食K-3Sを、100mgのC sodium acetateで標識した。
【結果】
Breath ID Systemのデータによれば、%dose/h曲線の上昇部には、試験開始後30分前後に特徴的な傾きの変化点が存在するため、この上昇部はむしろ上に凸の曲線となった。そこで、この変化点とピーク(Tmax)により%dose/h曲線を3つのphase、すなわち試験食摂取直後より順に、Early phase、Middle phase、Late phaseとし、各々のphaseにおける胃運動の特徴を検討したところ、Early phaseにおけるgastric accommodationの発生とduodenal brakeによる運動抑制機構(胃体部の収縮波が消失)、そして摂食刺激による運動促進機構の均衡が成立することで、傾きの変化点が形成されると推測された。この変化点からピーク(Tmax)に至るMiddle phaseにおいて、規則正しく伝播する強力な収縮波の発生を認めていた。この変化点は、呼気バック法では把握し難く、食後期における経時的な胃運動の変化を反映することは困難であった。なお試験終了までに、空腹期消化管運動;PhaseIIIの発生を認めることはなかった。
【結語】
C呼気試験による胃排出能測定において連続的な呼気採取は、空腹期消化管運動のような大まかに3つのphaseに分けられる食後期胃運動を推測可能にする。そして、%dose/h曲線がピーク(Tmax)に至るまでに、時々刻々と胃運動は変化しており、特に試験食摂取後早期の密な呼気採取が、胃排出測定において重要な意義を有すると考えられた。
10. 健常人におけるクエン酸モサプリド投与前後における胃排出他の変化
神戸大学糖尿病代謝消化器腎臓病内科・光学医療診療部
白坂 大輔、加地 正明、三木 生也、福田 昌輝、宮地 英行、青山 伸郎
【目的】
選択的セロトニン5-HT4作動薬であるクエン酸モサプリドは、セロトニン5-HT4受容体を刺激して、アセチルコリンを遊離させ、そのアセチルコリンの作用により、消化管運動機能が改善するとされている。今回我々は、アセトアミノフェン法(APAP法)を用いて、クエン酸モサプリド投与前後における胃排出能の変化について検討した。
【対象と方法】
腹部手術の既往や潰瘍性病変を認めないH.pylori陰性27例(男性21名、女性6名、平均年齢32.29±10.41歳)を対象とした。試験食は固形食(scramble egg,white bread,water)とし、scramble eggにAPAP20mg/kgを混ぜ、摂取後45分後に採血し血清APAP濃度を測定した。クエン酸モサプリド常用量15mg/日を7日間投与後、同様の検査を行った。今回の母集団を、投与前のAPAP濃度が平均値-標準偏差未満のものを胃排出能遅延群、平均値+標準偏差以上のものを亢進群、それ以外と正常群と定義した。また、投与後APAP濃度が3ug/ml以上増加したものを胃排出能亢進と定義した。
【結果】
投与前および後の平均APAP濃度は14.1±2.7ug/mlあった。遅延群は4名、亢進群4名、正常群19名で、胃排出能が亢進したのは、遅延群で2名(50%)、正常群で4名(21.1%)、亢進群で1例(25%)と遅延群に多い傾向を認めた。胃排出能が亢進した7名のうち、5名(71.4%)は投与前のAPAP濃度が平均値以下であった。
【結語】
クエン酸モサプリドは、胃排出能遅延者の胃排出能を改善させるが、正常者あるいは亢進者の胃排出能をより亢進させることは少なかった。今回の結果は、正常あるいは亢進者にクエン酸モサプリドを投与しても消化管運動亢進による副作用(腹痛、下痢等)を認めにくい可能性があるという意味で臨床上重要であると考えられた。
11. 逆流性食道炎と消化管発酵反応
東邦大学消化器内科
瓜田 純久、日毛 和男、鳥居 尚隆、菊池 由宣、倉形 秀則、神田 映子、笹島 雅彦、三木 一正
【目的】
摂取した炭水化物の2-20%は小腸での消化吸収をすり抜けて大腸へ到達し、腸内細菌の発酵反応により水素、二酸化炭素、短鎖脂肪酸などが生成される。健常者においては大腸内で生成された短鎖脂肪酸は胃排出を遅延させ、LES圧に影響し、とくに食後のTLESRを増加させることが報告されている。そこで、今回われわれは消化管内での発酵反応の有無と逆流性食道炎との関連について検討した。
【方法】
内視鏡検査を行った795例(平均年齢60.8才、男女比271:524)を対象とし、内視鏡検査前に呼気を採取し、呼気中水素・メタンガス濃度を測定した。さらに内視鏡を送気せずに挿入し、胃内腔および十二指腸下行脚から気体を採取し、水素・メタンガス濃度を測定した。水素・メタンガス濃度は呼気分析装置(TGA-2000、テラメックス)で測定した。
【結果】
呼気中水素ガス濃度が10ppm以上は逆流性食道炎は149例中25例(16.8%)、非食道炎例646例中62例(9.6%)であった。逆流性食道炎で呼気中水素ガス上昇がみられなかった124例中12例、非食道炎群では584例中35例でメタンガス濃度の上昇がみられた。水素・メタンいずれかが上昇している症例は逆流性食道炎群37/149例(24.8%)、非食道炎群97/646(15.0%)であり,逆流性食道炎群では呼気中水素・メタン上昇例が有意(p=0.0039)に多かった。逆流性食道炎群で呼気中水素・メタン上昇37例中、背景胃粘膜がclosed type 17例(45.9%)、非上昇112例中67例(59.8%)であり、呼気中水素・メタンが上昇した逆流性食道炎例には萎縮性胃炎を伴うことが多い傾向がみられた(p=0.14)。胃内腔水素ガス濃度が10ppm以上であった症例は逆流性食道炎群44例(29.5)、非食道炎群150例(23.2%)と差はなかった。十二指腸内腔水素ガス濃度は順に40例(29.5%)、133例(20.6%)と逆流性食道炎群で高値傾向を示したが、有意差はなかった(p=0.095)。
【結論】
全消化管発酵反応の指標とされる空腹時呼気中水素・メタンガスを測定し、発酵反応と逆流性食道炎との関連について検討した。逆流牲食道炎例では消化管発酵が亢進している場合が多く、発酵生成物が逆流性食道炎の病態に関与をしている可能性が示唆された。
12. 腸管嚢腫様気腫PCIの検討
東北大学心療内科
青木 勲、相模 泰宏、森下 城、遠藤 由香、唐橋 一人、唐橋 昌子、田村 太作、安達 正士、庄司 知隆、内海 厚
東北大学病院総合診療部
本郷 道夫
【背景】
Pneumatosis Cystoides Intestinalis(PCI)は消化器疾患、閉塞性肺疾患、膠原病などに合併して発症する稀な病態である。自覚症状に乏しい反面、イレウス像、気腹などの合併症で他覚症状を呈する。今回保存的治療で軽快したPCI症例を経験したので報告する。
【症例】
75歳女性。主訴は嘔気、嘔吐、腹痛、食欲不振
【現病歴】
X-4年レイノー症状出現。X-2年夜間の嘔気、嘔吐出現。X-1年下肢浮腫出現。Systemic Sclerosis(SSc)疑診でステロイド投与したが無効。全身性浮腫、腹満感、乏尿、歩行困難も出現。消化器内科にて消化管機能異常疑診とされ東北大学心療内科入院(1回目)。栄養輸液、利尿剤投与で全身状態改善。検査上抗核抗体が陽転。消化器症状先行型のSScと診断。マーカー通過試験で全消化管通過時間延長、上部消化管透視で食道逆流・胃内Ba貯留・十二指腸拡張、胃電図では自律神経機能障害、十二指腸内圧検査で神経性、筋原性の障害、大腸内圧検査にて重度の消化管運動異常を認めた。栄養摂取を目的にポート留置し退院。後、発熱、更に食欲不振、腹痛、嘔吐出現し当科入院(2回目)。
【入院後経過】
熱源はポート感染によるものであり、ポート抜去、抗生剤投与にて軽快。一方、胸部単純X線単純写真、腹部骨盤造影CTでfree airを認めた。CTでは小腸腸管壁の一部がair densityであり、PCIと診断。腹膜刺激症状もなく、絶飲食にて経過観察。3日後、free air、症状共に消失し、PCIは軽快。
【結語】
SScに合併し、保存的療法で軽快したPCI症例を経験。
13. Effect of Epidurally Infused Analgesic drugs on the Recovery of Post Operative Ileus
Department of Surgery, Jikei University School of Medicine
Tomoko Takahashi,Naruo Kawasaki,Koji Nakada,Yutaka Suzuki,Yoshio Ishibashi,Yoshiyuki Furukawa,Nobuyoshi Hanyu,Katsuhiko Yanaga
【Background】
Postoperative ileus is an inevitable state after laparotomy. When this prolongs, it may suppress bacterial growth in the intestine and lead to bacterial translocation and sepsis which may trigger complications.In order to prevent this, early recovery from this state is required.
【Aim】
The aim of this study is to investigate the effects of epidurally infused analgesic drugs in a clinical dose to the recovery of postoperative ileus.
【Methods】
15 female hound dogs(BW10-12kg)were randomly divided into 3 groups.Under general anesthesia epidural catheters were inserted. The groups were a)natural saline alone, b)Ropivacaine 2mg/ml, c)Morphine 0.08mg/ml with saline. Infusion of each drug started at the time of laparotomy. 7 Strain gauge force transducers were sutured to the surface serosa of the body and antrum of the stomach, duodenum, jejunum, ileum, proximal colon and distal colon. A catheter was inserted into the right cervical vein for parental nutrition.Continuous recording of gut motility started immediately after the operation, up to the end of postoperative day7(POD7).
【Results】
The appearance of the first phase3 was as below
(hrs(SD))
Body
Antrum
Duodenum
Jejunum
Ileum
Saline (n=5) 139.7(23.6) 82.6(14.1) 77.8(16.1) 46(4.2) 36.6(5.8)
Ropivacaine (n=5) 79.3(12.1) 72.7(12.4) 47.1(4.6) 38.5(3.6) 29.9(6.6)
Morphine (n=5) 36.6(11.3) 43.7(11.3) 14.4(9.7) 13.0(7.7) 6.4(1.6)
【Conclusion】
We suspect that a continuous infusion of Morphine into the epidural space shortens the time for the recovery from post operative ileus.