S - 1. 術後癒着性イレウスの発症と季節における気候変化の関係
東京大学大学院医学系研究科消化管外科学
比企 直樹、竹下 勇太郎、久保田 啓介、清水 伸幸、山口 浩和、今村 和広、野崎 浩二、下山 省二、真船 健一、上西 紀夫
癒着性イレウスの大きな原因のひとつとして開腹手術による術後の癒着が知られているが、気候と術後癒着性イレウス発症との関係について多くは知られていない。消化管運動は温度変化に影響され,蠕動が変化することが知られている。
【目的】
東京における温度、湿度、気圧などの気象条件と術後癒着性イレウス発症の関係を解析する。
【方法】
1989年1月〜1998年12月に東京大学医学部付属病院分院外科に術後癒着性イレウスの診断で入院した233人を対象とした。診断は腹部Xp、CT、触診、問診などによって行った。また、この観察期間における日ごとの気象条件(温度、湿度、気圧)を気象庁のデータベースより調査した。気象条件は7グループ(各気温5℃、湿度10%、気圧5hPa区切り)に分け、各々のグループ別に術後癒着性イレウス発症の症例数と期待値を求めた。
【結果】
233人のイレウス入院日における気象条件分析では低気温5〜10℃、湿度40〜50%、気圧1010〜1015hPaの気象条件には比較的術後癒着性イレウスによる入院が多いことが示唆された。
【まとめ】
東京の冬型気候は低温・低湿度・中等度気圧に代表される。われわれが解析した233例の術後癒着性イレウスの入院日の気象条件は低温・低湿度・中等度気圧であることが多かった。東京における冬型気象条件が術後癒着性イレウス発症に何らかの影響を及ぼしている可能性があることが示唆された。
S - 2. 直腸S状結腸癌術前術後における直腸肛門機能の比較検討
奈良県立医科大学第二生理学
児島 祐、中川 正、勝井 煉太、高木 都
奈良県立医科大学第一外科
児島 祐、島谷 英彦、勝井 煉太、藤井 久男、中島 祥介
【目的】
これまでに術後排便機能障害の程度を調べるために直腸肛門機能検査が行われてきたが、リンパ節郭清に伴う自律神経損傷の直腸肛門反射に対する、影響に着目した報告はない。我々はモルモットを用いた実験で自律神経(腰結腸神経)の損傷が反射を亢進することを報告した。そこで今回、術前後の排便機能の比較検討を行い、自律神経損傷の影響を調べた。
【対象と方法】
過去2年半の直腸S状結腸癌手術症例のうち、術前および術後3ヶ月以内に直腸肛門機能検査を施行した20例を対象とした。術前後の肛門最大静止圧(MRP)、最大随意収縮圧(MSP)を測定し、排便回数、直腸肛門反射、肛門緑から吻合部までの距離(AV)を測定した。反射の検討はAVが5cm以上の16例を対象とした。反射による弛緩率(RRR)は、(反射前肛門内圧−反射時最小肛門内圧)/反射前肛門内圧と定義した。
【結果】
術後には有意に排便回数が増加した、AVが10cm未満の9例では排便回数の増加率が高い傾向にあった。MRPは術後に低下する傾向を認め、特にAVが5cm以下の4例ではMRPの低下率が高い傾向にあった。MSPに変化は認められなかった(n=20)。術後、反射は16中13例(81.3%)に認められ、AVが10cmを超える症例では全例に認められた。リンパ節郭清に伴い腰結腸神経が損傷された13例中7例(53.8%)で反射の増加が認められた。術前より排便回数が顕著に増加した症例では、RRRは亢進していた。
【考察と結論】
術後には、MRPは低下する傾向を認め、排便回数は有意に増加していた。術後にも直腸肛門弛緩反射は観察され、リンパ節郭清に伴い腰結腸神経が損傷された症例で反射の亢進が認められた。これはモルモットでの動物実験の結果と一致し、腰結腸神経障害による弛緩反応の亢進が術後の少量頻便を伴う排便機能障害に関与するものと推察される。
S - 3. 膵頭切除術後の胃運動機能と体重回復の検討 ー PpPDとPHRSDの比較 ー
九州大学医学研究院臨床・腫瘍外科
川本 雅彦、許斐 裕之、小林 毅一郎、竹田 虎彦、山口 幸二、田中 雅夫
【はじめに】
PPPDにおける術後早期合併症の一つとして胃内容停滞がある。これはPPPD症例の約30〜50%に生じるとされ、生理的周期性運動亢進サイクル(Migrating Motor Complex, MMC)の強収縮期(phase III)の回復遅延が一部に関係し、十二指腸の有無が術後の胃運動に影響を与えることをこれまで報告してきた(Surgery 1996; 120:831-837)。今回我々は、 PPPDとPHRSDにおける術後胃運動・体重回復について比較検討を行った。
【対象】
1995年11月から2002年9月の間に施行したPPPD患者15例(平均56.7±13.1歳)およびPHRSD患者6例(平均57.2±6.7歳)を対象とした。両群では性・年齢・良悪性の種類・手術時間・術中出血量などの各背景因子に有意差を認めなかった。再建は、PPPD群では全例残胃と挙上空腸を直列に吻合する今永法を行い、またPHRSD群では十二指腸端々吻合・膵胃吻合を行った。
【方法】
術中に先端部を前庭部に留置した圧測定力テーテルを用いて術後早期より定量還流法による胃内圧測定を開始し、典型的なphase IIIが最初に認められた日をphase III出現日とした。phase III出現までの期間・胃液排出量・胃瘻使用期間・経口開始までの期間・術後在院期間・全入院期間・体重・術前血清アルブミン値・糖尿病の有無をパラメータとして2術式間の統計学的検討を行った。体重は全身状態の比較的安定化した術後約3ヶ月の時点で判定した。術前を100%として90%以上を回復良好群、 90%未満を不良群として分類した。
【結果】
胃のphase IIIはPPPD群に比べてPHRSD群で有意に早期に出現した(37±8.3日、16±9.6日、P=0.0021) 。胃瘻使用期間は有意ではないもののPHRSD群で短い傾向があった。体重もPPPD群に比べてPHRSD群で有意に回復良好であった(95±2.3%、90±4.5%、P=0.0121)。
【まとめ】
膵頭部領域の疾患において、その適応は限定されるが、術後胃運動機能および体重回復の点でPHRSDはPPPDに比べて有利であり、十二指腸をできる限り温存する意義がある。
S - 4. Ileo-jejunal transpositionのラット回腸縦走平滑筋収縮に対する効果
東北大学生体調節外科
柴田 近、舟山 裕士、福島 浩平、高橋 賢一、小川 仁、長尾 宗紀、渡辺 和宏、羽根田 祥、工藤 克昌、佐々木 巌
【背景】
Ileo-jejunal transposition(IJT)は遠位回腸の一部を順蠕動性に近位空腸へと間置する術式であり、これによって回腸から分泌されるPYYなどの血中濃度が上昇するために胃排出が遅延することをわれわれは報告した。このようなIJTの運動抑制効果は、大腸全摘後の難治性下痢の治療に臨床応用できる可能性があるが、IJTの小腸運動に対する効果は知られていない。
【目的】
IJTの回腸縦走平滑筋対する効果をin vitroで検討すること。
【方法】
体重250g前後のSDラットを用い、対照群(外科的処置なし)、 IJT群(全空回腸の1/4の長さの遠位回腸を順蠕動性に近位空腸へと間置)、Sham群(IJTに相当する部位で小腸を3ヶ所切離、再吻合)の3群を作製した。IJT群とSham群では術後12-16週経過した時点で実験に用いた。回腸末端から約10cmの回腸から、縦走筋標本を作製し、tissue chamber内に吊るしてisometricな平滑筋収縮を測定した。縦走筋標本を少しずつ伸展させて自発性収縮を測定した後、コリン作動薬であるベサネコール(10-7-10-4M)、アドレナリン作動薬であるノルエピネフリン(10-8-10-4M)に対する反応、電気刺激に対する反応、を3群間で比較・検討した。
【結果】
自発性収縮のfrequencyは3群で差がなかったが、amplitudeはIJT群で対照群に比べて有意に低下していた。IJT群のベサネコール10-6M以上に対する反応は他の2群に比べて有意に亢進していたが、最大反応の50%の効果を得るために必要なベサネコールの濃度は3群で差がなかった。すなわち、IJT群ではベサネコールに対するsensitivityの変化なしで反応が亢進していた。ノルエピネフリンに対する反応と電気刺激に対する反応は3群間で差がなかった。
【結語】
IJTにより回腸縦走筋の自発性収縮が低下し、コリン作動薬に対する収縮反応亢進が引き起こされた。自発性収縮の低下が大腸全摘後のIJTによる下痢改善作用につながる可能性が示された。
S - 5. 術後早期経腸が結腸切除後の消化管運動回復過程に及ぼす影響について
東京慈恵会医科大学外科
川崎 成郎、中田 浩ニ、高橋 朋子、鈴木 裕、石橋 由朗、古川 良幸、羽生 信義、矢永 勝彦
【目的】
近年、bacterial translocationやコスト、安全性の観点から早期経腸栄養が推奨されている。今回、早期経腸栄養(Immunonutrition)が消化管運動と免疫能および栄養に及ぼす影響について検討した。
【方法】
群設定
経腸栄養(EN)群と静脈栄養(TPN)群
実験動物
ピーグル犬(n=10)
実験モデル作成
遠位結腸を離断し再吻合。胃、十二指腸、空腸、回腸、結腸にストレンゲージトランスデューサーを縫着
栄養管理
EN群は胃瘻からインパクト30kcal/kg(1kcal/ml)投与。TPN群はアミノトリパ25kcal/kg(0.9kcal/ml)と20%イントラリピッド5kcal/kg投与
検討期間
術後1〜7日
検討項目
消化管運動の回復過程(空腹期強収縮の出現頻度、運動量)、rapid turnover protein(RTP)、腸間膜リンパ節培養、小腸上皮間リンパ球数
【成績】
EN群はTPN群と比較して
(1)強収縮の回復 胃は術後3日、十二指腸は術後2日で有意に早かった(P<0.05)
(2)運動量(収縮波高と収縮持続時間) 術後3、5日で有意に多かった(P<0.05)
(3)RTP 術後4日で有意に高値を示した(P<0.05)
(4)腸間膜リンパ節培養、小腸上皮間リンパ球数 有意差はなかった
【結論】
術後早期経腸栄養は経静脈栄養に比べて消化管運動の回復を早め、またより良い栄養状態を可能にすると考えられた。